テンポのあるセンス

日常の生活の中にもちょっとした気づきはあって、このふわっとした気づきから何か書きだせるなと思う瞬間はままあるのだけど、それは本当にふわっとしたものだから、そのとき感じていた感覚は時間と共に静かに消えてしまっているようで、仮に単語レベルでメモを残しておいたとしても後日書きだそうとするともうその時の感覚では表現が綴れないことが多い。その時書いておけば何か残せたかもしれないと思うともう後悔しかないのだが、もうこれは書くことが習慣化できていない自分のせいでしかない。

 

組織で働いていると自分の書いた文章をてにをはから何から稟議の過程でいじられることがあると思うのだけど、自分が結構な時間をかけて繊細な文と文との繋がり、頭から尻尾までの美しい文章の流れ、それを構成する各単語などを考え抜いて紡ぎだした文章がいじられにいじられ逆に劣化した形で最終形としてアウトプットされるのはなかなか耐え難いところがあって、組織人としての宿命だとは思いつつ、自分が生み出したはずの表現をある種傷をつけられた形で世に送り出し、人様の目にさらされなければならないのは、例えるなら自分が時間をかけて色々仕込んだ自慢の弟子を、後に変な流派とかに変な影響を受けて型が少し乱れてしまった後、自分が育て上げましたと言わなければならないシチュエーションみたいなものじゃないかと感じている。

その点ブログは誰にいじられるわけではないのでその心配はないのがいい。評価も全て自分でかぶるので自分の小ささを感じざるを得ないのも。たぶん不自由であればあるほど生み出せるものというのはあって、制約の中でこそ生み出せる価値はあると思っている。というか完全な自由というのはおそらくどこにもなくて、大小あれどどこか不自由な中それを前提に適切にアウトプットできるのがたぶん社会に価値を生み出せている人なんだろうと。

 

文章もそうだけど事業立案とかにセンスを感じる人・そうでない人はどうしても分かれて、よく選手として優秀な人と監督として優秀な人は違うとスポーツの世界でも言うように、才能やセンスに溢れた人は自分の感覚を人にうまく教えられないことは多いと思う。なんとなくこの人提案の方向性違うんだよなとは気づいてもそれがどうして違うのかがうまく伝えられない。スポーツや芸術に限らずビジネスの世界でもそれはある程度通じると思っていて、センスのない人はセンスのない提案を繰り返すし、しかもそれに自分で気づいていないことが多い。(気づいていないからこそ繰り返す。)

絶対的に先天的なものがモノをいうスポーツや芸術の世界とは違って、ビジネスのセンスは後天的にも磨くことができるとは思うのだが、同時にそれは短期的に磨くことは難しくて長期的に磨いていく必要があると思っている。すなわちセンスのある生活や人付き合いや学びや経験が求められるわけで、そういったものを主体的に、時に有能な師に導かれながら選択していく必要があるわけで、そしてこの選択も同様にセンスであって、有能な師に出会えるのは偶然もあるがその人がそれだと気づき教えを仰げるのもまた主体性でありすなわちセンスであって。

どうしようもないセンスのなさで決められた方針だったり目標に巻き込まれないのは組織人としては結構大事で、つまり泥船かそうでないかをきちんと見極めて生き抜いていかなければならない。働く会社をきちんと選ぶことも然りだが、着いていく上司をきちんと選ぶことも処世術としてとても大事で、それでいてセンスのない上司から波風たてずフェイドアウトしていく技術も大事で、今自分はそれをとても求めている。センスのない人は自分がそうであるとは思っていないわけなので、言ってみればプロ野球選手になれると思っている子供に才能ないよとほのめかすのは結構な確率で後腐れがあるわけで、自分の意見を空気読まず言いがちな自分には習得の難易度が高い世渡りスキルなのである。

 

「あなたの判断でいいよ」と言う、言われることはままあると思うのだが、この時実際は純粋に自分で100%判断してよい、できるわけではないことが多い。「あなたの判断」でいいよと言った人との関係性がたぶん一番判断を左右してしまう要素で、それが自分の格上の上司だったら?力ではかなわない男性だったら?相手の意向をある程度汲んだ判断をしてしまうのではないか。

先日、AかBかという二択を求める場面で、ある新人(女性)にとってBという選択肢が望ましいのに、同僚(男性)があからさまにAという選択肢を一度提案した上で新人にAかBかの判断を求めるという場面を見てしまった。Aを提案した同僚にとっては新人がBよりAを選ぶ方が都合がよかった。自分はその前にBの選択肢をチームで共有する形で新人に提示していたが、本人の判断という形に持っていかれてしまうと上下関係のほぼない即席のチームだったのでそれを押し通すこともできず、そして結局新人はAを選んだ。

 

 

好きな映画であり、才能だとか師だとか個人の判断を考えるにも良い映画だと思う笑


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